記憶を未来へつなぐ家。
2017-12-05毎日だんだん寒くなる中、ふいに明るい青空が広がった秋の終わり。
鵠ノ杜舎は、ついに完成お披露目を迎えました。
この日、開かれた「鵠ノ杜舎 うごくおうちと とれたて市」には、ご近所の方を中心にたくさんのお客さんが集まっていました。SNSでハッシュタグ#鵠ノ杜舎とつけて写真を上げると、湘南野菜がもらえる!なんて大盤振る舞い企画もあって、おまつりのようなにぎわいです。
私もほぼ全部のお店を回って、おいしいもの&お買い物を満喫してしまいました。
地元・湘南のおいしいもの・素敵なもの、ざくざく。
茅ヶ崎や藤沢など、地元・湘南から集まった出店のラインナップは幅広く、どれもオーナーのこだわりを感じさせる個性的なお店。
こちらは、たこ焼き、餃子、おにぎりと豚汁。おいしそうな湯気と匂いが漂うキッチンカーたち。
「藤沢名物たこ焼き風天」さんは鵠ノ杜舎から徒歩10分。定番「ソース」に加えて、「しお・こしょう」、お酒によく合う「アヒージョ」など他ではなかなか味わえないメニューが並びます。鵠ノ杜舎に行ったらぜひ立ち寄ってみてください。おすすめ。
湘南らしく新鮮な野菜のトラックや、オーガニックスイーツとコーヒーの出店も。甘酒はこの季節らしくて、ほっとします。
洗練された雰囲気のアロマフレグランスに、造花やドライフラワーの雑貨屋さん。自分で好みの匂いを調香してオリジナルのフレグランスがつくれたり、クリスマスリースをつくれるワークショップがあったり。私も一目惚れした造花のコサージュを買いました。
真鍮のしぶい輝きがなんとも味わいあるクラフト時計、ふしぎなアンティークショップ、手づくりアクセサリーといった個性的な雑貨も並びます。外国の蚤の市みたい。
大人も子ども笑顔になる、大道芸やワークショップ
大人から子どもまで、夢中になって見ているのは大道芸人の「たっきん」さん。大道芸コロシアム東京大会で優勝経験をもつ実力派。偶然にも「ここから徒歩3分」のところに住んでいるそうです。鵠ノ杜舎に住んだら、ばったり出会えそうですね!
そして恒例のmarukanさんワークショップも、今回はさらにパワーアップ。何といっても目玉は、イベントのタイトルにもなっている「うごくおうち」づくりです。
プロの職人集団『湘南マイスター・ネットワーク』の皆さんが、参加者さんと一緒になって車の付いた可動式の小屋を建てていきながら、道具の使いかた、小屋の組み立てからタイル貼りなどプロの知識と技術を教えてくれます。
横では子どもたちが鵠ノ杜舎のおうちを描くお絵かきコンテストや、おかもちづくりのワークショップ。
さらに、大工さんがつくったまな板やお箸のインテリアショップも開店していました。樹種が選べるのが嬉しい。
marukanさんのワークショップは、毎度ながら「ものづくりの楽しさを伝えたい!」という情熱があふれています。本当にいい素材と本物の道具、大工さんのたしかな腕で、質のいいものづくりを体験してもらいたい。そんな思いが満ち満ちています。
大工さんたち自身がご自分の仕事に誇りと自信を持って、自分たちがまず楽しんでいる。だからこそ、子どもたちにものづくりの楽しさが伝わんだろうな。本当にかっこいい、職人さんたちです。
個人的に、とっても面白かったのが、左官のワークショップ。参加者の皆さんは、漆喰の重さとコテの扱いに四苦八苦。
鵠ノ杜舎の建物の外壁は、すべて講師を務める左官さんの手で塗り上げられているのです。目の前でその重さ、難しさを目の当たりにすると、それがどれだけ凄いことか、初めてわかります。職人さんって、本当にすごい……!
「今日を楽しみに待ってたのよ」
ご近所さんたちも、たくさん遊びに来てくれました。このあたりで生まれ育って八十年あまりという女性は、お友達も誘って遊びに来てくれたそうです。「今日を楽しみに、折込チラシを全部集めて何日も前から待っていたのよ」と嬉しそう。
――昔から、このあたりにお住まいなんですか?
「私(わたくし)の生まれた家がこのあたりの土地を全部持っていて、湘南高校に(敷地として)売ったの。その両側にまだ土地が残っていて、そこ(鵠ノ杜舎を見下ろす丘の上)にお墓があるのね。今日はお父さんにお墓参りしながら、上で開始を待ってたの。お友達も呼んじゃってね。」
――どうして、そんなに楽しみだったんですか?
「お墓参りに来たら、普通ではないアパートが建っていたの。建物のあいだを道路がずっと通っていて、でも中が(外から見ると複数のお部屋に)分かれていると思わないでしょう。全部ひとりで借りるのかしらって、不思議に思っていたの。だから今日、中を見るのが楽しみで。どんなおうちができるのかしら、誰が住むのかしらって。」
――実際に完成したお家をご覧になってみて、いかがですか。
「素晴らしいねえ。若者だったら欲しいねえ。うちは古い家だから。
ここはもともと山でね。山を削って高校を建てたの。昔はお墓参りに来ると、海と江ノ島がよく見えたのよ。周りは家なんて何もなくて、畑ばっかりだったから。」
地域の方がこれだけ楽しみに見守ってくれていたなんて、幸せな賃貸住宅ですね。穏やかな語り口で、「鵠ノ杜舎」の「鵠」は「くぐい」とも読むことを教えて下さいました。これは、白鳥の古い名前なのだそうです。
鵠ノ杜舎で踏み出した、夢の第一歩
今日のイベントが特別なのは、なんといっても実際にここで暮らす「住人さん」がいること。
入り口すぐ、鵠ノ杜舎の「顔」のような場所にオープンしたのが、訪問看護センター併設のオーガニックカフェ&リラクゼーションサロン「Home Place」。
訪問看護センターは2018年3月オープン予定ですが、すでにカフェとサロンは営業しています。この日は「とれたて市」のために準備された、オーガニック野菜をふんだんに使ったランチボックスと、体験リンパマッサージが大人気の様子。
オーナーの柳澤優子さんは、10年以上の看護師のキャリアを経て、独立。訪問看護事務所の開業を目指して勉強や準備をされている時に、鵠ノ杜舎に出会い、入居を即決されたそうです。
柳澤さん:
「私たち看護師は、患者さんが病気になってから、あるいは寝たきりになってからしか関われないことが多くて。もう少し健康なとき、看護が必要になる前から顔見知りになっておけたら、もう少しいい医療情報をご提供できたりするんじゃないか、という思いがありました。
病院に行くほどでもないちょっとした健康相談や、ご家族やご親戚が認知症で…といったご相談もしていただけたら。そういう形で、自然と連携していけたらいいな、地域の中でずーっと見守っていけたらいいな、という妄想が、鵠ノ杜舎のおかげで形になりました。」
工事中の鵠ノ杜舎の看板をたまたま見かけ、現場にいたスタッフと話をしたところ意気投合。もともと開業準備をされていたとはいえ、鵠ノ杜舎で!と決めてから三ヶ月という短期間で、カフェの開店までこぎつけた柳澤さんの行動力には目を見張ります。
柳澤さん:
「自宅はここから徒歩5分なんです。散歩しているときに偶然見つけて。もともと“地元でやろう”とは決めていたし、こんな、まちづくりをしようなんて賃貸住宅、なかなか無いじゃないですか?」
――どうしてカフェ併設に?
柳澤:
看護師として患者さんと関わる中で、『食べることは生きること』であることを教えて頂きました。
オーガニックカフェを運営していく中で、健康な身体を作るという側面と共に、自然の恵みを頂いて生きていること、大切な人と楽しく食事する幸せなど、暮らしの中に当たり前にある『食べる』ということを見つめ直すきっかけを作れたらいいなと思ったのがきっかけです。
それと、どうしてもここが借りたかったから、(鵠ノ杜舎完成の)10月に借りられるにはどうしたらいいだろう? と考えて、カフェをやろうと考えたんです。
そんなとき、夏に(カフェのお料理を担当する)田島さんと偶然出会ったんです。『こういうことをやりたい!』という話をしたら、『じゃあ一緒にやりますか?』とその場で意気投合して。
そのときはまだ、田島さんのお料理も食べたことがなかったんですけど、目をキラキラさせてお料理のことを話している田島さんを見て、“この人の作るお料理は絶対においしい!”と思って、決めちゃいました。でも食べてみたら、本当においしくて。」
――実際に入居されて、鵠ノ杜舎はどうですか?
柳澤さん:
「めちゃくちゃ、いいですね。他の入居者の皆さんとも顔を合わせる機会が多いので、自然とお話をするようになって、もうお名前も顔もお互いに知っています」
鵠ノ杜舎に住む子育て中の女性たちからは、早くも「ここでママ会をやりたいね!なんて話も出ているそうです。
鵠ノ杜舎との出会いをきっかけに、夢の第一歩を踏み出した柳澤さん。marukanさんにオーダーで造ってもらったというカウンターの向こうに立つ笑顔が、とっても晴れやかでした。文字通り、鵠ノ杜舎の「顔」になっていきそうです。
土地の風景は変わっても、変わらない「大切なもの」。ここ湘南・鵠沼の地に静かに息づいてきた人々の営み。鵠ノ杜舎で暮らし始める皆さんが、しっかりとそのバトンを受け取って、未来へとつないでいってくれるような、そんな確かな感覚がありました。
「暮らし」という命を吹き込まれ、いよいよ呼吸を始めた鵠ノ杜舎。これからの成長を、私も湘南で暮らす一人として、楽しみに見守っていきたいです。